脳は期待値から価値を判断するー報酬強度とドーパミン神経系ー
複数の報酬が期待されるとき
脳にとっての価値は、獲得した報酬と状態から予測される価値との差分で表されます。
この研究では、一つの報酬が得られたか否かという点に着目していました。
しかし、私たちの日常では、期待される報酬が一つとは限りません。
例えば、宝くじでは金額によって複数のあたりが用意されています。
では、複数の報酬が期待できる場面で、私たちの脳はどのように価値を判断しているのでしょうか?
ドーパミン神経は主観的な価値の大きさを表す
サルに複数の手がかり刺激と報酬の関係を学習させました。
手がかり刺激に応じて、報酬の種類(ジュース、バナナ)とその量が異なる5パターンが用意されました(下図)。
まず、サルの行動をみることによってそれらの報酬の種類によって、好きの度合いが異なることがわかりました。一番好きな大量のジュースが期待される手がかりが提示されると、サルは盛んにその報酬を獲得しようと行動します。一方で、あまり好まない報酬が期待と結びついた手がかりが提示された場合は、報酬獲得行動は少なくなります。
次に、それぞれの手がかり刺激が提示された場合のドーパミン神経の活動を観察しました。
その結果、期待される報酬が好ましいほど、ドーパミン神経の活動は高くなりました。
好ましさの低い報酬期待ではドーパミン神経の活動が下がる
さらに興味深いことに、5つの手がかりのうち、好ましさの低い報酬が期待される2つの手がかり刺激が提示されたときには、ドーパミン神経の活動は、報酬が獲得できるにもかかわらず、ベースラインの活動よりも下がってしまいました。
また、5つの手がかりのうち、真ん中の3番目に好ましい報酬が期待される手がかりが提示されたときには、ドーパミンの活動はほとんどベースラインの活動量から変化しませんでした。
参考:Lak et al., PNAS 2014
脳は平均的な価値を基準に価値判断する
これらの結果は以下のことを示唆します。
- ドーパミン神経はその活動強度によって主観的な価値を表す
- 主観的な価値は、期待される複数の報酬の平均的価値からの差分で表される
小さな幸せに気づけない?
何でも手に入ることがあたりまえになると、小さな幸せに気づくことができなくなるのは、このドーパミン神経活動の性質から来るのかもしれません。
参考文献
Lak A, Stauffer WR, Schultz W. Dopamine prediction error responses integrate subjective value from different reward dimensions. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Feb 11;111(6):2343-8. https://www.pnas.org/content/111/6/2343
Image by Nattanan Kanchanaprat from Pixabay