~とある湖畔から~

脳と意思決定の研究の記録

すぐに獲得できないものの価値は下がるー遅延価値割引ー

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報酬は予測していても嬉しい

報酬の価値を計算するドーパミン神経の活動から、獲得する報酬の価値の大きさは獲得前に予測された価値との差分で決まることがわかります。

 

neuartblog.hatenablog.com

 

ですが、いくら将来に報酬が獲得できることが予測されていたとしても、実際に報酬を受け取ると嬉しいものです。

この原因は何なんでしょうか?

 

遅延が報酬の価値を下げる

 私たちは、同じ報酬でも、将来に受け取る場合の価値を、現在受け取る場合の価値よりも低く見積もってしまいます。

この報酬を獲得するまでの遅延によって価値が下がってしまう現象を、「遅延価値割引」といいます。

 

 例えば、$200の獲得によって得られる主観的価値を評価してもらうと、今受け取る場合の主観的価値に比べ、将来受け取る場合の主観的価値は低下してしまいます(下図)。

そのため、予測していた報酬を実際に獲得しても、嬉しく感じます。

                               

f:id:Neuart:20211027195959j:plain参考:Estle et al., 2006

 

損失も遅延によって割引かれる

  遅延価値割引は、損失に対しても観察されます(上図)。

つまり、−$200の損失の主観的な強度は、今すぐに起こる場合よりも、将来に起こる場合の方が小さくなります。

 

遅延割引と将来に向けた行動

 将来の利得や損失は、今受け取る場合と比べ、小さく感じることを見てきました。

これは、私たちの行動にどのように関わるのでしょうか?

将来の利得や損失を小さく見積もってしまうと、長期的な目標に対する行動が取れず、今楽しければ良いと言った行動になってしまいます。

例えば資格試験では、長期的な試験の合格という目標に向けた行動をとらなければなりませんが、試験の合格という利得や試験の不合格で被る損失の見積もりが低くなると、合格に向けた勉強ではなくテレビを見るなどの短絡的な利得を選択してしまいます。

ダイエットも、痩せるという長期的利得と、今美味しいものを食べるという短絡的利得の間の選択に晒されています。

 

遅延価値割引を防ぐには

 遅延割引を防ぐには、長期的な利得を強く意識し実感することが大切です。

この点については、別の記事にまとめます。

 

 

参考文献

Green L, Myerson J. How many impulsivities? A discounting perspective. J Exp Anal Behav. 2013 Jan;99(1):3-13. doi: 10.1002/jeab.1. Epub 2012 Dec 5.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23344985/

Estle SJ, Green L, Myerson J, Holt DD. Differential effects of amount on temporal and probability discounting of gains and losses. Mem Cognit. 2006 Jun;34(4):914-28. doi: 10.3758/bf03193437.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17063921/

 

 

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