将来を期待しすぎない脳ー不確実な報酬の価値評価
不確実性により報酬の価値は低下する
私たちの日常における意思決定では、結果が確実に予測される選択肢は稀です。
そのため、私たちは選択肢を選ぶ際に、その選択肢で得られる結果(報酬量)だけでなく、その報酬の獲得の不確実性、つまり報酬の獲得確率を考慮し統合的に選択肢の価値を予測します。
これまでの研究から、報酬の獲得確率の低下に伴い報酬の価値が割引かれることが明らかとなっています。
例えば、先行研究のデータを見てみると、「70%で得られる$1000」と「100%で得られる$700」を選択する場合、人は100%で得られる$700を選ぶ傾向があります(Rachlin et al., 1991)。
これは報酬の獲得確率が70%であるために$1000の価値が割引かれ低くなったことを示しています。
主観的な報酬確率は実際より低く見積もられる
この不確実性による報酬価値の割引率は、双曲線関数で表されることがわかっています。
V = A/(1 + hθ)
θ = (1/p) - 1(オッズアゲインスト)
V:割引された報酬価値
A:獲得する報酬価値
h:割引率を決定するパラメーター
p:報酬の確率
先にふれた先行研究のデータだと、h = 1.6で下記のような確率価値割引のグラフになります。
参考:Rachlin et al., 1991
グラフのように、私たちの確率による価値割引は、期待値よりも大きいことがわかります。
つまり、私たちが実際に感じる主観的確率は、実際の確率よりも低く見積もられていることになります。
大きい価値ほど不確実性による価値割引率が大きくなる
不確実性による価値割引率は、報酬量が大きいほど大きくなることがわかっています。
下のグラフは、確実に得られる報酬量を1として、報酬の確率が小さく(θ:オッズアゲインスト [報酬確率が20%なら4、50%なら1] が大きく)なるほど報酬の主観的強度が低下することを示しています。
$200と$5,000の低下率を比較すると、$5,000の方が$200よりも大きいことがわかります。
参考:Green and Myerson 2004
確率価値割引は将来の成功を期待しすぎないことあらわれか
報酬の獲得確率が小さくなるほど報酬の主観的価値が低下することは、報酬に対する期待が獲得確率の低下に伴い小さくなっていくことを表します。
これは、確率の低い結果ほど期待しないようなっているように見えます。
また、報酬量が大きいほど価値割引率が大きくなりました。
これは、例えば宝くじを考えると、当選金額が大きいほど当選しないと感じるていることを示唆します。
つまり確率価値割引の現象や、私たちの脳が達成できなさそうな将来の事象について期待しすぎないような性質を持っていることを示唆しています。
参考文献
Rachlin H, Raineri A, Cross D. Subjective probability and delay. J Exp Anal Behav. 1991 Mar;55(2):233-44. doi: 10.1901/jeab.1991.55-233. PMID: 2037827; PMCID: PMC1323057.
Green L, Myerson J. A discounting framework for choice with delayed and probabilistic rewards. Psychol Bull. 2004 Sep;130(5):769-92. doi: 10.1037/0033-2909.130.5.769. PMID: 15367080; PMCID: PMC1382186.
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