~とある湖畔から~

脳と意思決定の研究の記録

扁桃体と環境の探索

情動反応や条件付けに関与することが知られている扁桃体が、新規空間の探索に関与することを報告した論文。

An Amygdala Circuit Mediates Experience-Dependent Momentary Arrests during Exploration.

Paolo Botta, Akira Fushiki, Ana Mafalda Vicente, Luke A. Hammond, Alice C. Mosberger, Charles R. Gerfen, Darcy Peterka, Rui M. Costa

Cell, Volume 183, Issue 3, Pages 605-619.e22, 2020

 概要

新規環境の探索は、環境の情報獲得と学習に重要である。ラットは新規環境の探索時に短時間停止する探索行動(arrest behavior)をとる。この探索行動への扁桃体ニューロンの関与を検討した。

結果と考察

探索行動は短時間の加速度の変化(速度の低下から増加)を伴う。この加速度の増加の際に扁桃体外側基底核(BLA)ニューロンの活動が増加した(Fig1)。

次に、探索行動中のBLAニューロンの神経活動のオプトジェネティクス(1)で人為的に操作し、探索行動への影響を検討。BLAニューロンの神経活動の亢進は探索行動を延長した(Fig2)。一方で、BLAニューロンの神経活動の抑制は探索行動を減少させた(Fig3)。

探索行動は全くの新規環境では観察されず、探索した経験がある場所で観察された。これに対応して、BLAニューロンの神経活動も探索の経験に伴い増加した(Fig4)。

これらの結果から、扁桃体には経験に依存した探索行動に関与するニューロンが存在することが示唆された。

感想

これまで、情動反応とか条件付け反応に関与することが知られていた扁桃体が、探索中の停止行動と関与することを示した点が面白い。論文のイントロダクションでTolmanの認知地図に触れているが、認知地図との関連があるのか興味深い。

 
脚注

 (1)オプトジェネティクス:光感受性タンパク質をニューロンに発現させ,それに光を照射することによってニューロンの活動を操作する手法